第一志望に承諾を出した。ほっとしたのも束の間、ふと落ち着かなくなる。「入社までの半年、このまま何もしなくていいんだろうか」。
思い切って人事や先輩社員に「何かやっておいたほうがいいことはありますか」と聞いてみると、返ってくるのはたいてい「遊んどけ」。我究館の面談でも、毎年のように聞く話です。学生の側は、やっておくべき何かがあるはずだと思って聞いているのに、ほしい答えが返ってこないのです。
同じような不安は、調査にも表れています。26卒の内定者465人への調査*1では、入社までの期間に「不安・心配」を感じている人が73.5%にのぼり、最も多い回答でした。
同じ調査では、不安の中身も聞いています。最多は「自分の能力で仕事についていけるか」で、69.7%でした。会社選びへの迷いというより、働く自分の姿がまだ見えないことが不安の中心にある。この調査からはそう見て取れます。
そこでこの記事では、我究館の卒業生たちの実例から、「入社までにやっておいてよかった」と言える過ごし方を紹介します。共通しているのは、まとまった時間がないとできないことに、自分のテーマを持って取り組んだことです。
不安を覚えるほうが正常
まず、不安そのものについて。社会人になったことのない人が、これから社会人になることに不安を覚えないほうが、むしろ不自然ではないでしょうか。
不安ではないと答えた二十数%は、何も考えていないだけなのかもしれません。
不安は、将来から目をそらさずに考えている証拠でもあります。消そうとする必要はありません。
分かれ目になるのは、不安かどうかではなく、この期間の使い道を自分で決めているかどうかです。
伝説のバンカーに会いに行った内定者
我究館の卒業生に、Mさんがいます。
Mさんはメガバンクを志望していましたが、ご縁がなく、政府系の金融機関に内定しました。それでも気持ちの整理がつかなかった彼は、「伝説のバンカー」と呼ばれる人物の対談動画を見つけ、直接連絡を取って会いに行きます。学生からの依頼だったこともあってか、相手は会ってくれました。
彼が聞きたかったのは、自分には何が足りなかったのか、ということでした。返ってきたのは「君にはまだ挑戦が足りないんじゃないか」という言葉です。
Mさんはお寺の生まれで、努力家で真面目な、育ちのいい学生でした。だからこそ「いい子でいなければ」という意識が強く、挑戦したい気持ちはあっても踏み出せずにいたのかもしれません。
では、今できる挑戦は何か。Mさんが選んだのは、熊野古道とお遍路を歩くことでした。歩いてみるとほとんど人に会わず、「死ぬんじゃないか」と感じる場面もあったといいます。
それでも歩ききった彼は、「自分の限界に、自分でキャップをはめていたことに気づけました」と報告に来ました。
足りなかった挑戦の正体を、時間のある学生のうちに、自分の足で確かめてきたわけです。

目的を決めてから世界を見に行った卒業生
もうひとり、学生時代に塾を起業し、就職後もその経営を続けている卒業生がいます。卒業までに何をしたらいいかを面談で相談し、返ってきたのは「世界を見ておいでよ」という提案でした。
ただし、行き方に条件がついています。ただ旅行するのではなく、「ここは何を見に行く」「ここは何を感じに行く」と、行き先ごとに目的を決めること。1年後には景色が変わっているであろう国の「今」を見に行くこと。彼は深圳やインド、ベトナムなど5、6か国を回り、帰国すると「やっぱり語学をやりたいです」と自分で決めて、語学スクールに通い始めました。
Mさんのお遍路も、この卒業生の旅も、やったこと自体は特別ではありません。共通しているのは、まとまった時間がないとできないことを、自分のテーマを持ってやったことです。同じ道を歩いても、同じ国を訪れても、自分の中に問いがあるかどうかで、得られるものは変わります。
テーマは、誰かに与えてもらうものでなくてかまいません。社会で自分はこうしたい、に対して、ここを見に行こう、この人に会いに行こうと、自己分析の延長で決めていけます。
社会に出てから役立つ何かというより、社会に出る踏ん切りをつける。そういう過ごし方もあります。友人と旅行に行ききるのも、それで踏ん切りがつくなら立派な使い道です。「後悔しない」の中身は、人によって違います。冒頭の「遊んどけ」も、この意味でなら、間違ったアドバイスではないのでしょう。

懇親会では、おすすめの本を聞いてみる
大きな挑戦だけが選択肢ではありません。多くの会社は入社前に内定者の懇親会を開きますが、目的なく参加すると、ご飯を食べて仲良くなって終わってしまいがちです。
おすすめしたいのは、その場に来ている人事や部長クラスの社員に、おすすめの本を聞くことです。そして読んだら、感想をメールで送る。感想を送られて嫌がる人は、まずいません。むしろ次の一冊をすすめてくれて、入社前から関係ができていくことがあります。自分にとっても、知らない世界や価値観に触れる機会になります。
自分が働く会社の先輩が、数ある本の中から選んですすめてくれる一冊です。入社後の世界を知る入り口として、これほど手軽なものはなかなかありません。
余談ですが、すすめられた本が『夢をかなえるゾウ』で、著者の水野敬也さんが我究館の卒業生だと知って話が弾んだ、という内定者もいました。

資格は、求められているものだけでいい
逆に、やらなくていいこともあります。焦りから、ITパスポートのような資格の勉強を始める内定者がいます。ですが、会社から求められていない資格を、この期間に取る必要はありません。
証券会社の証券外務員のように、内定期間に取得を求められるものは別です。
「取っておいたほうがいいかな」くらいの動機の資格に、この貴重な期間を充てるのはもったいないはず。
漠然と過ごすと、後悔すらできない
やってよかったことの裏側には、何もしなかった人の話もあります。構造は、就職活動と同じです。漠然と過ごせば、就活はあっという間に終わってしまいます。
内定後も、目的を持たずに過ごすとあっという間に終わって、それが良かったのか悪かったのかも評価できません。
後悔している、という相談が寄せられるわけではありません。比べる基準を持っていないから、後悔のしようがないのです。気づいたら入社日を迎えてしまっていた、ということです。
学生最後の日を、どういう状態で迎えたいか
2027年3月31日、学生最後の日を、どういう状態で迎えたいか。我究館では、就活を終えた4年生にこの問いを投げかけることがあります。翌日の4月1日には入社式があり、社会人1年目が始まります。その前日の迎え方は、人によってまったく違います。
卒業式や入社式は、誰にでも同じ日にやってきます。ですが、その日にどういう自分でありたいかは、誰も決めてくれません。就職活動には締切があり、選考があり、進む道筋が用意されていました。ここから先には、それがありません。何をしていいか分からないから不安になるのだとしたら、最初に決めるのはこの期間のゴールです。
学生最後の日の自分を決めて、そこから逆算すれば、やることはおのずと絞られます。Mさんのお遍路も、5、6か国の旅も、懇親会での一冊も、それぞれの「こうありたい」から出てきた行動でした。
『絶対内定』では、自己分析のワークシートを就職活動で回したあと、内定後にもう一度、社会人になってからも繰り返すことをすすめています。会社を選ぶための自己分析が終わったいまは、決まったステージでどう始めるかを考えるための自己分析に取りかかれるタイミングでもあります。
我究館の学生たちには、内定後の自分を「大学4年生というより、社会人0年目」と捉える人が少なくありません。入社までの期間は、社会人0年目の助走期間です。
不安は消えなくてかまいません。
学生最後の日の自分を決めて、冒頭にあげた「まとまった時間がないとできないこと」に、自分のテーマを持って取り組む。先輩たちの「やっておいてよかったこと」は、そういう過ごし方の中から生まれていました。
(参考)
*1: ラーニングイノベーション総合研究所(ALL DIFFERENT)|内定者意識調査(内定期間中の心境編)(2025年9月〜12月実施、2026年卒の内定者465人が対象)



