OB訪問は、選考に有利になるのか。それとも、関係ないのか。就職活動のたびに、この問いは繰り返されてきました。
ネットを開けば、答えを説く記事はいくらでも見つかります。けれど、その答えはたいてい「企業による」で終わってしまう。読み終えても、何をどう考えればいいのかは、手元に残らないものです。
この記事では、有利か不利かという問いに正面から答えることはしません。かわりに、この問いの立て方そのものを、いちど疑ってみたいと思います。
「有利か、不利か」を、いったん脇に置く
実態として、訪問した学生の印象を社員が会社に報告する。そんな企業は年々増えています。
訪問での評価の高さによって、本選考の進み方が変わる企業もあります。その一方で、「OB訪問は選考には関係ありません」と、はっきり言い切る企業も少なくありません。
つまり、評価するかしないかは、企業によってばらばらなのです。だから「有利か、不利か」をどれだけ突き詰めても、すべてに当てはまる答えは出てきません。この問いにとらわれているかぎり、相手に自分がどう評価されるかばかりが気になって、肝心の、自分がそこで何をしたいのかが見えなくなってしまいます。
だから、問いを変えます。

会社は、あなたの「貢献」を実現する舞台だ
そもそも、仕事とは何でしょうか。仕事とは、誰かに価値を与えることです。
人の役に立ち、その人の何かに貢献する。だからこそ、それは仕事と呼ばれます。
貢献には、大きさの違いがあります。一人でできる貢献もあります。数人が集まれば果たせる貢献もあります。
けれど、あなたが本当に果たしたい貢献が、もっと大きなものだとしたら、どうでしょうか。一人の手にも、数人の手にも、負えません。
たくさんの人が力を合わせ、同じ方向へ動く仕組みが要ります。それが、会社という組織です。
だから、会社はあなたにとって、果たしたい貢献を実現するための舞台になります。就職とは、その舞台を見つけ、自分がどこで力を尽くすのかを決めることなのです。
この前提に立つと、OB訪問の意味も変わってきます。もちろん、こちらが選ばれる立場であることに変わりはありません。
それでも、ただ選ばれるかどうかを気にするだけの場ではない。この会社が、自分の果たしたい貢献を実現できる舞台なのか―― それを自分の目で確かめにいく場でもあるのです。

聞くべきは「何をもらえるか」ではなく「何ができそうか」
では、自分の舞台かどうかを確かめにいく人は、OB訪問で何を聞くのか。
多くの学生が、まず気にするのは「何をもらえるか」です。年収はどれくらいか。仕事の中身は。休みは取れるのか。福利厚生は。
知りたくなる気持ちは、よく分かります。働くことは生活そのものだから、当然のことです。
けれど、それは「自分がもらえるもの」の話にとどまります。本当に知りたいのは、その逆です。自分は、この会社で何ができそうなのか。自分の力は、この場所で活きるのか。
それは、パンフレットにも採用サイトにも書いていません。現場で働く人の、生の声からしか掴めないのです。
その問いを持って臨めば、質問は自然とこういう形になります。
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組織として目指していること―― この会社は、十年後にどこへ向かおうとしているのか。自分が与えたい方向と、その行き先は重なるか
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企業や業界が抱える課題―― 短期、中期、長期で、何に困っているのか。課題とは、自分が力を発揮できる余地そのものです
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競合他社から見た姿―― 同じ業界の人から見て、この会社はどう映るのか。なぜ、ほかではなく、この舞台なのか
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具体的な仕事の中身―― 思い描いていた仕事と、実際の仕事は、どれくらい重なっているのか
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そこで働く人たちの雰囲気―― 自分は、誰と一緒に力を尽くすことになるのか
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会社の文化―― 大事な意思決定のとき、この会社は何を大切にするのか。その進め方は、自分に合うか
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社会情勢や業界動向のとらえ方―― 報道で見る景色と、現場で見えている景色に、どんな違いがあるのか
もちろん、待遇や休みを聞いてはいけない、ということではありません。ただ、もらえるものは、答えを受け取ればそれで終わりです。
この七つは、その先へ進むための問い。聞いた話をもとに、自分ならそこで何ができそうかを、自分の頭で考える。答えは相手がくれるものではなく、自分で見つけにいくものです。ここが自分の貢献を実現できる舞台なのかは、そうやって初めて見えてきます。
よいOB訪問は、それ自体が本選考の準備になる
舞台を確かめにいく訪問は、結果として、就職活動でもっとも強い準備になります。準備とは、情報を集めることだけを指すのではありません。志望動機を磨くことも、人としての振る舞いを洗練させることも、すべてそこに含まれます。
志望動機を、現場で完成させる。 現場で聞いた話は、自分だけが手にした話です。ほかの誰も持っていない。その話をもとに組み立てた志望動機は、他の学生の言葉と、はっきり違うものになります。だからOB訪問では、許されるかぎり、自分の志望動機を聞いてもらいましょう。甘いところを、遠慮なく指摘してもらう。そこで弱点を潰しておけば、本選考で同じところをつかれずにすみます。自分が与えたいものを、生の声で鍛え直しておくのです。
話すより、聞く。 OB訪問を「面接だ」と身構えるあまり、自分が話すことに必死になる人がいます。けれど、一問一答で自分を売り込む場ではありません。相手の話を受けて、そこから会話を広げていく。相手が熱を込めて語りはじめたとき、その会社の素顔が見えてきます。
どの舞台なら、自分の力が活きるのか。 同じ業界でも、会社が違えば、社風はまるで違います。だからこそ、一人だけで判断してはいけません。何人にも会い、自分に合う場所を探す。頭で判断するのではなく、実際に会って確かめるのです。
十年後の自分を、先を行く人に確かめる。 気楽に話せる若手だけに会って終える人が多い。けれど、それではもったいない。若手は現場に詳しい一方で、組織の全体像までは見えていないことがあります。逆に、役職が上がるほど、会社が中長期でどこへ向かうのかが見えている。自分がその舞台で、十年先も力を与え続けられるのか――それを確かめるには、四十代、五十代の話こそ聞く価値があります。緊張するかもしれません。それでも、勇気を出して会いにいってほしいと思います。
最後に、ひとりの学生の話をさせてください。その人は、OB訪問に行くたびに、会ってくれた先輩へ、自分の足りないところを遠慮なく指摘してほしいと頼んでいました。
返ってくる言葉は鋭く、最初は帰り道でうなだれてばかり。それでも、言われたことをノートに書きつけ、次はどう話すか、何を尋ねるかを考えつづけました。悔しさに泣いた夜も、一度きりではなかったと思います。
話しやすい若手だけでなく、身構えてしまう四十代や五十代にも飛び込んでいき、会った人が三十人を超えるころ、その人は以前とは別人になっていました。第一志望からの内定は、もう驚くようなことではありませんでした。
ふるまいの落ち着きは、こうして後からやってきます。話し方の技術を仕込んだわけではありません。何度も人の前に立ち、指摘から逃げなかった。その時間の積み重ねが、いつのまにか、その人のたたずまいに表れていたのです。
選ばれるためだけの場ではない
就職活動のすべての過程は、「選ばれる」場であると同時に、「自分を高める」場でもあります。この視点に立てたとき、OB訪問は、評価を気にするだけの場ではなくなります。自分がどこで力を尽くしたいのかを、自分のために確かめる場になるのです。
「有利か、不利か」で迷っていた気持ちも、自分が何をしたいのかがはっきりすれば、自然と定まってきます。その一歩を、どうか、勇気を出して踏み出してください。あなたの未来は、こうした一つひとつの場で、確かにつくられていくのです。



